「小説を執筆しようと思っても、最初の一文が書けない……」
このように筆が止まることは、プロの作家でも少なくありません。小説の書き出しは読者を引き込む重要なポイント。手は抜きたくないですよね。
そこで今回は、名著の書き出しの紹介や解説、実際の書き方について解説します。
小説で自分の世界観を表現したい方や、文学を通して伝えたい想いがある方は、ぜひ参考にしてください。
事例から学ぶ小説の書き出し9選!
国内にはさまざまな名著が存在します。今回は国内作品に限定して、さまざまな作品の書き出しを見ていきましょう。ここでは以下の作品を紹介します。
作品 | 著者 | ジャンル |
十角館の殺人 | 綾辻行人 | ミステリ・サスペンス |
少年と犬 | 馳 星周 | ヒューマン |
そして、バトンは渡された | 瀬尾まいこ | ヒューマン |
コインロッカー・ベイビーズ | 村上龍 | ドラマ・ポストモダン文学 |
小説の神様 | 相沢沙呼 | ヒューマン |
阪急電車 | 有川 浩 | ヒューマン |
かがみの孤城 | 辻村 深月 | ファンタジーフィクション・ヒューマン |
お前の死因にとびきりの恐怖を | 梨 | ホラー(ホラーモキュメンタリー) |
ノルウェーの森 | 村上春樹 | 恋愛・教養・ヒューマン |
書き出しだけでなく、「読者を引き込んでいるポイント」についても解説します。
1.十角館の殺人:綾辻行人
ミステリ小説が好きな方であれば、十角館の殺人はご存知でしょう。巧妙なトリックや怒涛の伏線回収が高く評価されており、読者が苦手な方でも読みやすいことが特徴です。
風景から始める書き出しであり、主人公に少しずつ距離を近づける冒頭。読み手がイメージしやすい構成です。
「彼はひとりその巨大な闇と対峙していた」から「計画はすでにできあがっている」の流れは、何か大きな決断を連想させられます。
映画やドラマなどで作られる導入であり、最初の1ページには読者を世界観に引き込むテクニックが多数隠されています。
2.少年と犬:馳 星周
直木賞を受賞した「少年と犬」は、東日本大震災をテーマにした小説です。人と犬の関係だけでなく、「犬には本音をいえるのに、なぜ人には本心を伝えられないんだろう」と考えさせられる作品。
主人公の視点から物語が始まる書き出しであり、テーマが伝わりやすいことが特徴です。「あの大震災から半年」と明確に書かれているので、時系列を理解したうえで小説を楽しめます。
「犬はまだいた。和正をじっと見ている。」この一文は、犬が物語に影響を与えることを示唆しており、先が読みたくなる書き出しです。
3.そして、バトンは渡された:瀬尾まいこ
泣ける小説として長年愛される「そして、バトンは渡された」は、父と娘の二人暮らしのヒューマンストーリー。しかし父と娘に血のつながりはなく、「家族とは」を考えさせられる作品です。
朝から「かつ丼」や「餃子」を思いつくあたり、料理を作るのが「父親」とイメージできますね。
会話で「森宮さん」と呼ばれていることから、男性は実の父親でないことも予想できます。
4.コインロッカー・ベイビーズ:村上龍
「コインロッカー・ベイビーズ」は、1973年の渋谷駅のコインロッカーに「赤子が捨てられている事件」をテーマにした小説です。実際の事件が元ネタであり、強い衝撃を受けた作品の一つです。
書き出しの内容は非常にリアルであり、「実際に見たの?」と感じたことを覚えています。
出産から遺棄までの流れが冒頭で描かれており、読者に強烈なインパクトを与えるでしょう。当時の社会情勢も描かれており、なぜ幼児遺棄が増えたのかと考えさせられる小説です。
5.小説の神様:相沢沙呼
「小説の神様」は、自分の小説が評価されない学生小説家をテーマにした作品です。担当編集者の意見やネットの声に心が崩れていくさまは、小説家の苦悩をリアルに描いています。
「まだ着慣れていない制服に身を包んだ一年生たちが、僕を追い越していく。」と考える主人公は、すでにメンタルバランスが崩れいていることがわかりますね。
「僕はそんな、空っぽの人間なのだった。」を「だった」と表現するあたり、挑戦したけど結果が出なかった心情を的確に表しています。
6.阪急電車:有川 浩
「阪急電車」は、大阪・兵庫・京都に接続している、実際に存在する私鉄を舞台にした作品です。車内の人間心理を描いており、電車には無数のドラマがあると痛感します。
スマホが普及する前の作品なので、人々の行動が現代と違うこともまた魅力です。
「電車で一人で乗っている人は、大抵無表情でぼんやりしている。」は、「わかる!」と頷いてしまいます。
とにかく共感しやすい冒頭になっており、文章のテンポが良いことも印象的ですね。
7.かがみの孤城:辻村 深月
学生のイジメをテーマにしたファンタジー小説、「かがみの孤城」。イジメなんかなくなればいいのに、と何度も感じてしまう作品です。
「そんな奇跡が起きたらいいと、ずっと、願っている。」から「そんな奇跡が起きないことは、知っている。」へ続く流れは、
イジメという恐怖の中で生きる人の「期待と絶望」が渦巻いています。
とてもリアルな表現で、子どもと接する全ての大人に読んでいただきたい一冊です。
8.お前の死因にとびきりの恐怖を:梨
「お前の死因にとびきりの恐怖」は、読者が追体験できる新感覚のホラーモキュメンタリー。青春の要素もありながら、少し悲しくなるような恐怖を体験できます。
小説の書き出しは淡々とした説明口調で綴られており、「本のタイトルとセット」で創作されていることがわかります。
ページをめくるとQRコードが表示されていて、スマホを握りながら読み進めるようデザインされていることが画期的ですね。
9.ノルウェーの森:村上春樹
最後に紹介する「ノルウェーの森」は、「人」「欲」「感情」「心」など、人間を描いた作品だと感じています。何が正解だったのか、なぜそうなってしまったのか、深く考えさせられる作品です。
冒頭は主人公の年齢と居場所が明確に記載されています。主人公の目から見える景色から始める小説であり、イメージしやすい書き出しです。
「僕は顔を上げて北海の上空に浮かんだ暗い雲を眺め、自分がこれまでの人生の過程で失ってきた多くのもののことを考えた。」この一言から、主人公の回想が始まることがイメージできますね。
不思議な世界に入り込むような書き出しでありながら、読者に寄り添った文章表現が魅力です。
インパクトのある小説の書き出しを作る5つ方法
ここでは、読者のグッと引き込む書き出しの作り方を紹介します。
- 共感を狙う
- 衝撃を与える
- 登場人物の感情から入る
- カメラアングルから考える
- 文章のテンポを最適化する
上記の要素を組み合わせることで魅力的な冒頭になるので、ぜひ活用してみてください。
1.共感を狙う
「わかる!」「そうだよね」と共感を呼ぶ冒頭は、ページをめくりたくなる要素です。
例えば「そして、バトンは渡された」の最初の一文「何を作ろうか。気持ちのいいからりとした秋の朝。早くから意気込んで台所へ向かったものの、献立が浮かばない。」は、料理をする方には共感できる内容でしょう。
「阪急電車」の「電車で一人で乗っている人は、大抵無表情でぼんやりしている。」は、クスッと笑ってしまいます。
2.衝撃を与える
「コインロッカー・ベイビーズ」の「女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を血に含んだ。」や「赤ん坊をその中に入れてガムテープを巻き、紐で結んだ。」などは、読者に強烈なインパクトを与えます。
世の中には実際のデータをグロテスクに表現する作品が多数存在します。そのような書き出しは、たった数文字で読者の脳を揺さぶることが可能です。
ただし衝撃が強い冒頭は後述が非常に大切になります。書き出し以外でもインパクトを与えられるよう工夫することがポイントです。
3.登場人物の感情から入る
「防波堤の冷たいコンクリートに腰をかけ、白い呼気に身を包みながら、彼はひとりその巨大な闇と対峙していた。」や「僕はたぶん、小説の主人公には、なり得ない人間だ。」など、は
主人公の感情から物語が進む構成は、読者が感情移入しやすい書き出しの一つです。
ただ「僕は悲しい」「私は嬉しい」ではなく、「はひとりその巨大な闇と対峙していた」や「だ着慣れていない制服に身を包んだ一年生たちが、僕を追い越していく。」などの比喩表現を使うことで、よりリアルに描写できます。
4.カメラアングルから考える
シナリオ(映像脚本)の考え方ですが、小説でも幅広く利用されているテクニックの一つです。
例えば「夜の海。静寂の時。」という表現は、引きで海を撮影している様子がイメージできるでしょう。
カメラを登場人物に少しずつ近づけ、「防波堤の冷たいコンクリートに腰をかけ、」のように、引き→寄りになっていますね。
「ノルウェーの森」では登場人物の目線にカメラがあり、そこから「主人公の心の中にカメラが入る様子」が描かれています。
5.文章のテンポを最適化する
「たとえば、夢見る時がある。」「そうだ。ふわふわのオムレツを挟んだサンドイッチにしよう。」など、読みやすくキャッチーな文章は親しみやすい書き出しです。
読みにくかったり、リズムが悪かったりする文章は、読者が本を閉じる原因になります。推敲をする際に、文章のテンポを調整してみてください。
小説の書き出しが思いつない時は5つのやり方を試してみよう
小説の書き出しにテクニックはあるものの、実際に書けないことは少なくありません。どうしても冒頭が書けない場合は、以下の方法を試してみてください。
- 箇条書きで書いてみる
- 書き出しを後回しにする
- キャラクターの設計を見直す
- プロットを見直す
- ツールを利用する
順番に解説します。
箇条書きで書いてみる
冒頭の精度を上げるには、情報を整理することが大切です。まずは書きたい内容を、以下のテンプレートに合わせて書き出してみてください。
- 伝えたい内容を箇条書きで出す
- 読者に与えたい感情を箇条書き出す
- 使いたいセリフ・単語を箇条書きで出す
- 情報を整理する
まとめると、「とにかく書いてみる」ということです。下手な文章でも一文字書き出せば、筆が勝手に走る可能性があります。
書き出しを後回しにする
書き出しを最初に書く必要はありません。作品によっては、結末からデザインすることが適切な創作方法になるでしょう。
小説の執筆に規定や順番はないので、書きやすい章から創作を進めて大丈夫です。
執筆中に魅力的な書き出しが降ってくることもあるので、書き出しが思いつかないなら後回しにしてみてください。
キャラクターの設計を見直す
心理や感情をうまく表現できない時は、キャラクターの設計が不十分かもしれません。
例えばセリフで感情を表現する際に、その登場人物が使用する言葉や行動を考えることが大切です。
逆にいうとキャラクターが明確にイメージできると、冒頭から終盤まで主人公が勝手に作ってくれます。
プロットを見直す
書き出しで筆が止まる際に、小説の設計を見直すことも大切です。エンディング付近のシーンだけにこだわりすぎて、小説の前半の構成が甘いかもしれません。
またプロットで「冒頭で主人公のこのシーンを表現する」と明確に設計すれば、「何を書くか」ではなく「どう書くか」と、1ステップ上の思考になります。
以下の記事では直感的にプロットを作れるツールを紹介しています。無料で試せるので、合わせて参考にしてください。
ツールを利用する
近年では、創作活動に役立つツールが多数存在します。具体的には以下の通りです。
ツール | 料金 | 内容 |
小説書き出しメーカー | 無料 | 書きたい小説の冒頭数行を書いてくれる精度はあまり高くない字数制限あり |
Notion | 基本使用無料 | 書き出しから仮シナリオの作成まで可能情報整理にも活用可能 |
ChatGPT | 一部無料 | 書き出しから仮シナリオの作成まで可能 |
執筆に役立つツールは、以下の記事で紹介します。執筆ツールやプロットツールも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
小説の書き出しに関するよくある間違い
最後に、小説の書き出しに関するよくある間違いを紹介します。
「最初の一文」だけが書き出しではない
書き出しとは最初の一文を指すことが一般的です。しかし文学において書き出しとは、「最初のページの文章全て」が該当します。
例えば今回紹介した事例は、最初の一文から核心に迫る一言に続いていることがわかります。
確かに、最初の一文は非常に大切です。ただ芸術は「全て」を含めて作品です。
出だし文章だけでなく、冒頭全ての文章にこだわって書き出しを考えてみてください。
文章力よりわかりやすさが大切
比喩などを活用することで、文章のクオリティはグッと高くなります。ただし、読者にとってのわかりやすさを優先することを忘れないでください。
装飾した文章が優れた文章ではありません。読み手が理解して、感動する文章が魅力的な文章といえます。理解されてはじめて感動されるのが作品です。
自分なりの小説の書き出しを見つけてみよう
小説の書き出しに絶対の正解はありません。基本的には好きに書いて大丈夫です。
ただ筆が止まってしまう方は、人気作品を分析してみてください。
より多くの小説をコストを抑えて読みたい方には、AudibleやKindle Unlimitedを試してみてください。
サービス名 | 料金 | 作品事例 | 特徴 |
Audible | 月額1,500円(税込) 2ヶ月99円キャンペーン実施中 | ノルウェイの森:村上春樹 地面師たち:新庄 耕 Another:綾辻 行人 その他 >作品を確認する | 名作を聴き放題 小説・ビジネス書など多数のジャンルが聴き放題 |
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小説の書き方については以下の記事でも解説しています。興味のある方は、覗いてみてください。
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